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どないやねん――西洋から見た日本現代美術
 昨秋、パリのセーヌ河岸を歩いていて、厳めしい石の建物に「どないやねん」という日本語の垂れ幕がかかっているのに驚いた人がいるかもしれない。この建物は国立高等美術学校であり、「どないやねん」というのはそこで開かれた日本現代美術展のタイトルだったのである。
 この展覧会は、パリでの日本現代美術展としては、1986年にポンピドー・センターで開かれた「前衛芸術の日本」展以来のものだ。前回の展覧会は、日本の未来派、日本のシュルレアリスムというふうに、西洋の前衛芸術の歴史を座標軸とし、日本の前衛芸術がそれをいかに反映してきたかをたどるという、ある意味で植民地主義的な構成をもっていた。だが、それ以後、西洋が日本を見る視線も大きく変わった。もっとも、真の理解が深まったというわけではない。むしろ、日本をはじめとする東洋のマス・カルチャーのなかに、西洋のハイ・カルチャーの規範を超える過激なアナーキーを発見しておもしろがるという、新種のオリエンタリズム(それはコロニアリズムではないにせよポストコロニアリズムに対応するものだ)が支配的になってきたのだ。実際、いま西洋で日本現代美術を代表しているのは、荒木経惟の写真に見られる性的アナーキー(アラーキー?)であり、森村泰昌の「空装」美術に見られる過激なパロディである。さらにその上で、マンガやヴィデオやゲームの帝国で育った若い世代のアートに注目しようというのが、「どないやねん」展の目論見だと言ってよい。現に、入り口の中央にあるのは荒木博志の鉄腕アトムの人形、階段を右に上ったところにあるのはマンガをモチーフにした村上隆の巨大なバルーン、左に上ったところにあるのは自らSFめいた扮装で「巫女の祈り」を歌い続けるマリコ・モリのヴィデオ作品なのだ。これが日本現代美術の代表だというのだから、それこそ「どないやねん?!」と言いたくもなろうというものである。
 このような傾向は、美術の領域には限られない。たとえば、フランスで、そして日本でも話題を呼んでいる、ジャン=ピエール・リモザン監督の『TOKYO EYES』は、まさしくマンガやヴィデオやゲームの世代の若者たちの希薄で刹那的な生をポップに描いてみせた映画である。とくに、主役の武田真治のふわふわと不安定きわまりない表情や演技(というより地のままなのかもしれない)は、監督のそんな意図にぴったりだったと言えるだろう。そういえば、ベネトンの「社会派広告」を一貫して手がけてきたオリヴィエロ・トスカーニも、昨年、東京の若者たちを取材していたが、どうやら、かれらを、内面を欠いてひたすらキュートな、いわば「歴史の終わり」の後の白痴の天使たちとしてフィーチャーしようというのが、今回の目論見らしい。
 だが、新種のオリエンタリズムに基づくこの種の視線は、東洋そのものを見るのではなく、西洋のネガを、あるいは西洋にも迫り来る新しい未来のイメージを、東洋に投影して見ているに過ぎない。昔も今も必要なのは、そのような閉じた鏡のゲームの外で、西洋と東洋が現実味のある対話を始めることだ。そのためには、まず、向こうから投影されたイメージをこちらが拒否することが必要だろう。しかし、実際に目につくのは、逆の傾向である。現に、東京都現代美術館では、大規模なマンガの展覧会が開催され、付け足しめいた最後のセクションでは、マンガとアートの関係を代表するものとして、リキテンシュタインの作品(六億円で購入したからには機会あるごとに見せびらかしたいということか)に続き、やはり村上隆らの作品が並んでいた。そして、日本の映画ファンは、リモザンが洒落た手つきで描いてみせた日本の若者たちのイメージに熱狂するのである。
 しかし、もちろん、そういう閉じた鏡のゲームだけがすべてではない。「どないやねん」展にしても、よく見れば、そこからはみだす部分を含んでいるのだ。たとえば、階段の手前に置かれたヤノベ・ケンジの作品。彼がアトムスーツと称する放射線防護服をつくり、チェルノブイリをはじめとする危険地帯を旅するのは、あくまでも個人的なオブセッションによるのだが、その軌跡は期せずしてきわめて政治的な含意を帯びることになる。あるいは、ダムタイプのシャープなマルチメディア・パフォーマンスの映像とともに、そのメンバーたちが繰り広げるポップで過激なエイズ・アクティヴィズムの映像が流され、日本でも性の政治が問題になっていることを示している。ここには、日本もまた、マンガから出てきたような白痴の天使たちが浮遊する表層の世界ではなく、政治的葛藤を含んだ多層的な現実の社会であるという、ごくあたりまえの事実の、最低限の確認があるのだ。その点で、そしてただその点でのみ、「どないやねん」展は、新しい対話への第一歩だったということになるだろう。

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