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命をかけて他者を殲滅せよ――『スターシップ・トゥルーパーズ』に見るアメリカ
 今年のゴールデン・ウィークに公開された『スターシップ・トゥルーパーズ』は、今のところ史上最強にして最悪のSF映画である。
 主人公のリコは、同級生の科学少年カール、そして何より美人のカルメンにつられて、高校卒業とともに世界連邦軍に志願する。その彼を待ち受けていたのは、地獄のような特訓、そして、さらに地獄のような戦場だった。人類は巨大な蜘蛛のようなエイリアンと戦っている。コミュニケーションは不可能で、ひたすら殺し合うほかない。そのなかでリコは自らを冷徹な戦闘機械として鍛え上げていくのだった……。
 ハインラインの1959年の原作『宇宙の戦士』(ハヤカワ文庫)に基づくこの単純な物語を、映画はSFX技術を駆使して圧倒的なスペクタクルに仕立て上げてみせる。炎上する宇宙船。殺しても殺しても湧き出てくる蜘蛛。ちぎれて飛び散る人間の肢体。そう、これはいわばコンピュータ・ゲームそのままの映画化であり、そこでは人間は使い捨てのゲームの駒にすぎないのだ。そのゲームの戦略家に出世したカールがナチスを思わせる軍服を来て登場するシーンは、いかにも象徴的である。
 だが、それだけではない。ハインラインによれば「暴力は、歴史上、他の何にもまして、より多くの事件を解決してきた。その反対意見は最悪の希望的観測に過ぎない。」したがって、ただの民間人(シヴィリアン)とは違い、自分の属する社会の安全保障のために命を投げ出す覚悟のある兵士だけが市民(シティズン)と呼ばれるに値する。50年代のアメリカを思わせるそんな価値観の未来社会で、軍への志願を募る宣伝映像が流れる、それが第二次世界大戦中の対日プロパガンダ映画のパロディだったりもするのである。(ちなみに、原作の末尾には、南太平洋で戦死した若い米兵の武勲が記録されている。あの蜘蛛が、殺しても殺しても洞窟から出てくる日本兵のイメージに基づいているとしたら?)
 ほかにも、原作には、非行少年には鞭でモラルを叩き込まなければならないというように、40年後の日本の右翼が言っているようなことがたいてい盛り込まれている。67年に原作が邦訳されたときには、作者のファシズムへの傾斜についてSF界で論争が起こり、それは邦訳の新版にも抄録されている。そんな作品がいまアメリカで映画化されること自体、いかにも象徴的と言うべきだろう。
 考えてみれば、敗戦が日本の戦後文学を生んだように、ヴェトナムでの敗戦はアメリカ映画に内省と成熟をもたらした。だが、湾岸戦争での勝利がヴェトナム敗戦の後遺症を吹き飛ばしたあと、アメリカ映画はまたしても屈折なき楽天性に退行したかに見える。そこでは、他者はコミュニケーション不能なエイリアンであり(「イスラム原理主義者」のように?)、結局は殲滅されるほかないのだ。すでに『インディペンデンス・デイ』がその兆候だった。湾岸戦争の英雄だったアメリカ大統領は、曖昧な政治の世界に嫌気がさしていたのだが、エイリアンの攻撃を受けて、かえって元気を取り戻し、勝手に人類全体の独立を宣言したかと思うと、自ら戦闘機に乗って出撃するのだ。しかし、この映画の場合は、最後の勝利をもたらすのが黒人とユダヤ人のペアだというあたりにも、「政治的な正しさ」(ポリティカル・コレクトネス)への配慮が感じられるし、ところどころにユーモラスな要素がちりばめられている。ところが、『スターシップ・トゥルーパーズ』では、たしかに宇宙船のパイロットとなったカルメンをはじめとする女性たちが活躍するものの、勝ち残るのはすべて白人なのだ。そもそも、そこにはアメリカのミリタリズムを皮肉な目で見つめるオランダ人のヴァーホーヴェン監督のアイロニーがあるばかりであり、おそらくアメリカの大衆はそんなアイロニーにも気づかずにこの映画をストレートに楽しんでしまうのだろう。
 こうして、アメリカのSF映画が、内面性が蒸発したかのような白痴的楽天性に回帰しつつある一方で、日本のSFアニメは、むしろウェットな内面性に回帰しつつあるかのようだ。一昨年から話題になった『エヴァンゲリオン』にしても、「ぼくはなぜここにいるんだろう」というような甘ったるいアイデンティティへの問いが基調にあり、それは父や母といった擬似精神分析的なテーマを招き寄せずにおかない。イケイケのポストモダン消費社会ではアイデンティティなど雲散霧消したかに見えたのだが、「イケてないおたく」の内面ではアイデンティティの悩みが予想外に深くわだかまっていたのだろうか。問題は、しかし、そういう幼稚な煩悶が、突然きわめて暴力的な反応に反転しかねないことなのである。
 アメリカのテクノ馬鹿と日本のおたくのどちらがより暴力的なのか。いずれにしても、SF映画を見るかぎり、ずいぶん殺伐とした時代になってきたようだ。

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