Critical Space Archive

2001年の「A.I.」
 今は亡きキューブリックの企画をスピルバーグが引き継いで完成させた「A.I.」は、いかにもスピルバーグらしい大衆娯楽映画には違いないものの、特にキューブリックの「2001年宇宙の旅」への皮肉なオマージュとして見ればなかなか面白い映画である。
 近未来の世界で、ある夫婦が、事故にあった実の息子の替わりに、子供型ロボットのデイヴィッドを手に入れる。デイヴィッドは、人工知能(A.I.)に母への愛を植え込まれており、五歳児のままで成長することがない。そこへ、植物状態になっていた実の息子が意識を回復して戻ってくる。そして、その実の息子を危険にさらすような事故を引き起こしてしまったデイヴィッドは、無情にも捨てられてしまうのである。デイヴィッドは、自分が本物の子供でないから捨てられたと思い、「ピノキオ」の物語を手がかりに、何とか本物の子供になって母のもとに戻ろうと艱難辛苦を重ねる。そして、気候変動によって水没したニューヨークにたどりつき、そこでさらに2000年間も氷に閉じ込められてなお、母を慕い続けるのだ。「2001年」には、宇宙船を制御する人工知能が、幼年期の記憶を、また死への恐怖をもっているがゆえに、スイッチを切られまいとして人間の乗組員を殺してしまうという挿話があった。対するに、「A.I.」では、母への愛を植え付けられた人工知能が、どんな目にあってもただひたすらにその愛を貫くのである。
 「ピノキオ」のハイテク版とも言えるこの物語を、スピルバーグはあくまで甘く残酷なメルヘンとして映像化してゆく(実のところ、最初のレクチャーのシーンなどを削り、徹底したメルヘンに仕上げた方が、もっとよかっただろう)。デイヴィッドを演ずるハーレイ・ジョエル・オスメントは、あまりに完璧な演技がまさしくロボットのように人工的に見える。そのロボットが、本物の人間よりも人間的だという逆説。いや、本物の子供たちの残酷さに比べ、デイヴィッドがあくまで純真だということこそが、彼が本物の子供でない証拠なのだ。捨てられたデイヴィッドがロボット狩りにあうシーンも迫力に満ちている。見事な満月が出たかと思ったら実はそれがロボットを狩る気球だったという導入部には、「ET」への皮肉な自己言及を見ることもできるだろう。そのロボット狩りの過程でデイヴィッドの目撃するトラウマ的な出来事――とくにロボットの顔の破壊も、なかなかうまく描かれている。しかし、もちろんその体験がデイヴィッドを成熟させることはない。そして、艱難辛苦の果てにニューヨークに辿り着いたデイヴィッドは、水没したコニー・アイランド遊園地で、自分を本物の子供に変えてくれるはずの「青の妖精」の、どことなく母を思わせる顔と向き合ったまま、2000年の時を過ごすことになるのである。
 だが、何といっても興味深いのは、2000年後の世界で展開される、徹底してメロドラマティックでありながら、同時にきわめて冷ややかなフィナーレだ。そこでは人類はすでに死滅して久しく、地球は高度なロボットたちに引き継がれている。極度に抽象的な形態のヴィークルで飛んで来たそのロボットたちは、氷の下からデイヴィッドを発掘し(彼らがデイヴィッドと向かい合うシーンは、「2001年」で人間が月の地中から発掘されたモノリスと向かい合うシーンを思わせずにはいない)、デイヴィッドの記憶と、彼の(正確には彼の連れていたクマのロボットの)携えていた母の髪から、その母を再生してやる。ただし、彼女はたった一日しか生きらない。やはり記憶の中から再生された懐かしい家(「2001年」の最後で宇宙飛行士が加速された一生を過ごすのと似た、現実にはどこにも存在しない家)で母と過ごすその一日が、しかし、デイヴィッドにとっては時を超えた至福の瞬間となるだろう……。
 壮大な神話として撮られた「2001年宇宙の旅」で、人間の宇宙飛行士が最後にスター・チャイルドへと進化を遂げるとすれば、単純なメルヘンとして撮られた「A.I.」では、人類は知らぬ間にあっさりと死滅してしまい、本物の子供より純真な、従って本物ではありえない子供型ロボットの幻想の中で、愛惜をこめて追憶されるばかりだ。モダンな進歩/進化思想からポストモダンなノスタルジーへ。「2001年宇宙の旅」から33年をへて、まさしく2001年にこのような映画が封切られるというのも、皮肉な巡り合わせではある。
 ちなみに、私の後ろの列でこの映画を観ていた女の子たちは、フィナーレで一斉にしくしく泣いていたのが、タイトル・ロールになるともう一斉に携帯電話で話し始めていた。甘美なメルヘンと俗っぽい現実との素早い切り換え。それこそが現代というものなのだろう。

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