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『13デイズ』の教訓
 映画『13デイズ』をみて、あらためて思った。アメリカ人というのはどうしてこうも独善的なのか。
 この映画は1962年10月のキューバ危機を描いている。図々しくもキューバに核ミサイルを持ち込んだソ連のフルシチョフと、それをただちに攻撃しようとする好戦的なアメリカ軍の間に立って、若きケネディ兄弟と補佐官のケネス・オドンネル(ケヴィン・コスナー)が、全面核戦争にもつながりかねない危機をなんとか収拾しおおせる、というわけだ。確かにケネディが苦闘したのは事実である。だが、公平にみれば、危機が回避されたのはフルシチョフが譲歩したからであって、アメリカの強硬な対応はきわめて危険なものだったと言うべきだろう。
 ケネディが大統領に就任したのは61年のこと。この年すでにアメリカはピッグス湾事件を引き起こす。59年の革命で成立したキューバのカストロ政権を転覆させるため、反革命勢力を支援して攻撃をしかけ、まんまと失敗するのだ(この頃ヴェトナムにも同様な形で介入し、それがやがて泥沼の戦争につながってゆくことも、想起しておこう)。キューバ危機でケネディが軍の大言壮語に懐疑的だったのも、前年のこの失敗が記憶に新しかったためにほかならない。(ちなみに、ケネディ政権が、中国の核兵器開発に対し、核兵器の使用まで含む攻撃を検討していたことも、最近あきらかになった。)
 それにしても、巨大な軍が存在するとき、アメリカ大統領ほどの権限をもってしてもそれを抑えるのが容易でないことを、この映画はよく物語っている。とくに、当時のアメリカ軍のトップといえば、第二次世界大戦を勝ち抜いた将軍たち(そのなかには、対日爆撃を指揮し、冷戦下で戦略空軍司令部を創設した、カーティス・ルメイのような歴史的人物が含まれる)であり、その圧倒的なプレッシャーを、わずか45歳の大統領がよく抑えたことは、認めておくべきだろう。たとえば、新大統領のブッシュ・ジュニアが同じ立場にあったとしたら、これほど頑張れただろうか。いや、冷戦期にはそもそもブッシュのように人好きのするだけが取り柄の凡人が大統領に選ばれたはずがないのであって、これは仮定の質問としても的外れと言わねばならない。
 むしろ、現在のアメリカに見られるのは、ある意味で不思議な逆転現象だ。ケネディからジョンソン、ニクソンへと受け継がれたヴェトナム戦争は、双方にとっておそるべき悲劇に終わった。そして、湾岸戦争の時点でアメリカ軍のトップにいた将軍たち(新国務長官のパウエルを筆頭として)は、愚かな指揮官のために無意味な殺し合いが続くのを呪いながらヴェトナムの現場で苦労を重ねた世代にほかならないのだ。彼らがそこで大きな教訓を学んだことは、パウエルが統合参謀本部議長時代に打ち立てたドクトリンに明らかである。1:軍事的に見て圧倒的な優位が確保され、2:「エグジット・ストラテジー」(何をもって目標が達成されたと判断し、どのように軍を引き上げるかの手順)が前もって明確に規定されていないかぎり、軍を投入すべきではない。このドクトリンに従って、オルブライト前国務長官がユーゴスラヴィアへの軍事介入を主張したときも、軍は同意しなかったのだった。こうしてみると、万一ブッシュ・ジュニアが危険な賭けを思いついたとしても、パウエルや軍がそれに反対するという、ケネディ時代とは逆の構図が描かれることになるのかもしれない。
 だが、同じ論理でいけば、世代交代の次のサイクルも見ておくべきだろう。湾岸戦争は「ヴェトナム戦争パート2・ハッピーエンド版」とも呼ばれ、アメリカのヴェトナム戦争後遺症を良くも悪しくも吹き飛ばす効果をもった。とくに、ハイテク兵器の圧倒的な力はアメリカに自信を回復させ、その延長上でミサイル防衛への取り組みも本格化しつつある。(ヴェトナム戦争後遺症をいい意味で受け止めて、コッポラの「地獄の黙示録」をはじめとするすぐれた作品(必ずしも戦争ものとは限らない)を撮ってきたアメリカ映画界が、近年やたらとコンピュータ・グラフィックスを濫用した戦争ゲーム紛いの映画に退行しつつあるのも、それと同じ世代交代の現れだろう。湾岸戦争の英雄が大統領になるが、妥協の技術である政治に嫌気がさしていた、そこへエイリアンが侵略してくると急に元気を取り戻し、勝手に世界を代表して人類の独立を宣言したかと思うと自ら戦闘機で突撃していくという『インディペンデンス・デイ』は、その典型だ)。こうして、ヴェトナム戦争のヴェテランたちが退役する一方で、コンプレックスをもたない湾岸戦争の世代がアメリカ軍を指導するようになるとしたら、それはケネディ時代の軍にも似たパワー・グループになるおそれがある。とすれば、やはり問わねばならない。アメリカの政治は、それを制御するだけの力を維持しえているのだろうか。

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