Critical Space Archive

新たなステージに向かうダムタイプ
 マルチメディア・パフォーマンス・グループ<ダムタイプ>の新作「メモランダム」が東京の新国立劇場で上演されている。<ダムタイプ>といえばどうしても古橋悌二を中心とするパフォーマンス・グループというイメージが強いだろう。1984年に仲間たちと<ダムタイプ>を結成した彼は、「pH」(90年初演)や「S/N」(94年初演)といったユニークなパフォーマンスを生み出していった。とくに、「S/N」は、自らのHIV感染という事実をふまえ、エイズや同性愛などをめぐる問題を、鋭い社会批判と洗練されたクイアー・パフォーマンスを織り交ぜながら全体としてハイ・テックな舞台に仕立ててみせた衝撃的な作品であり、まさに彼なくしては考えられないものだった。それだけに、95年の彼の死は、あまりにも大きな喪失と感じられたのである。最近、彼の作品と発言を集めた『memorandum / teiji furuhashi』(Little More)という書物が刊行されたが、それを読み返すにつけ、35歳での早すぎる死が惜しまれてならない。
 しかし、<ダムタイプ>は古橋悌二を失った後も活動を続け、まず「OR」(97年初演)という見事なパフォ−マンスを生み出す。それは、病院のベッドで生か死か(life OR death)の臨界に置かれた身体を、<ダムタイプ>のメンバーひとりひとりが追体験するという、共同的な「喪の作業」でもあって、その限りで共同制作が比較的スムースに進んだのも、当然といえば当然だろう。だが、それだけではない。高谷史郎と池田亮司を中心として、ダムタイプの映像と音響は一挙に「テクノ化」され、暴力的なまでのインパクトを獲得した。そして、そのような映像と音響によって臨界まで追いやられたパフォーマーたちの身体も、その脆弱性にもかかわらず、いや、それゆえにこそ、危機的なまでの緊張を帯びることになった。それらがひとつになって、かつてなくスリリングな舞台が生まれたのである。それは、「古橋悌二以後」に向けて新たに歩みだされた<ダムタイプ>の第一歩だと言ってもよい。その延長上に生まれたのが、「メモランダム」なのだ。
 「メモランダム」の舞台を一貫して支える映像と音響は、「OR」ほど強烈ではない分、きわめて洗練されている。もちろん、高速の場面は圧倒的な強度をいささかも失っていない(むしろ、暴力的なインパクトによらずともそれだけの強度に到達できるようになったということだろう)。他方、緩慢な場面は、実にクールで時にユーモラスなエレガンスによって、観客を魅了する。実際、「OR」の時よりも自由度を取り戻したパフォーマーたちの身体は、この舞台で、あるいは演技のような、あるいはダンスのような、多彩なパフォーマンスを繰り広げる。それらが一体となって作り上げられる「メモランダム」の舞台に、われわれは、「OR」をふまえ、さらにぐんと表現の幅を広げた、新たな一歩を見て取ることができるだろう。
 「メモランダム」は記憶をテーマとしている。だが、そこで問題になるのは、もはや古橋悌二の思い出ではなく、記憶一般である。いや、記憶というよりも、記憶の消失だといったほうがよい。たとえば、覚え書き[メモランダム]がひきちぎられ、紙くずとともに散逸してゆく。また逆に、すべての情報が電子情報化され、ランダム・アクセス可能な形でアーカイヴに集積されるがゆえに、その情報の洪水の中で、かつてはごく限られた情報(黄ばんだ覚え書き[メモランダム]、セピア色の写真、等々)だけに支えられていたからこそはっきりしたストーリーに収まっていた個々の人生の記憶が、そのようなストーリーからはみ出、時としてさまざまな可能世界に分岐し(こうでもありえた、ああでもありえた……)、あげくのはてにはっきりした輪郭を失って雲散霧消してゆく。
 とくに、後者、つまり情報の過剰による記憶喪失という新たな症候を、「メモランダム」は目くるめく強度と精度で舞台にかけてみせる。舞台全面を覆って断続的に流れてゆく映像と音響。その流れの速度と密度が人間の知覚の限界に迫るとき、それは過剰露出されたフィルムのように真っ白な状態に近づいてゆく。だが、それだけではない。そこには、いわばその情報の激流をなんとか泳ぎきろうとするかのようなパフォーマーたちの身体がある。彼らは、たんに演技をしているわけでもなければ、ダンスを踊っているわけでもない。時に幼年期の記憶を反復し、時に身体にしみついた癖のようなものを露わにしながら、そこでただパフォームしているとしか言いようがない。にもかかわらず、いわば記憶の超伝導状態を目指す映像と音響の流れの中に、それらの身体が抵抗体として投げ込まれることによって、そこに複雑な相互作用が生じ、情報の過剰による記憶喪失を超える出来事が立ち現れるのである。そこにわれわれは21世紀の新たなパフォーミング・アートの萌芽を見る。

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