Critical Space Archive

宮島達男の凱旋
 1988年のヴェネツィア・ビエンナーレのアペルト(オープン)部門に出品した「光の海」で一躍世界の注目を集めた宮島達男は、99年のビエンナーレに今度は日本館の代表作家として出品した「メガデス」でめざましい成熟ぶりを見せつけた。その「メガデス」が、いま東京オペラシティ アートギャラリーで展示されている。圧倒的な力作である。
 「光の海」は、床にちらばった無数の発光ダイオードのカウンターが赤い数字をチカチカと明滅させる作品だった。さらに、宮島はカウンターを真っ暗な部屋の中に一列に並べてみせるようになる(たとえば原美術館にある常設展示のように)。あくまでハイテックでありながら、禅にもつながる瞑想的な雰囲気を湛えた空間。それは最初からほとんど古典的な完成度をもち、現代日本美術の一典型として広く世界に受け入れられたのだった。
 「メガデス」で、宮島は、今度は青いカウンターを、なんと2400個も、5m×34mの巨大な壁面全体に広げてみせる。しんとした暗闇の中でそれらが瞬きながらカウント・ダウンを続けるさまは、息を呑むほど美しい。しかも、ある瞬間、すべての数字がふっと消えて、巨大な空間が闇に閉ざされるのだ。そう、「メガデス」は広島と長崎に象徴される大量死の表現――ただし、無機的なまでにクールな、また、それゆえにいっそう戦慄的な表現なのである。ここで、宮島は、テクノロジカルな「美」を超えて、ほとんどテクノロジカルな「崇高」にまで到達したのだと言えるだろう。
 私は、88年に埼玉県立近代美術館で宮島と公開対談を行ったことがあり、ちょうどカウンターの作品が完成された形を取ろうとする、その生成過程に立ち会って、深い感銘を受けていた。それからの10年間、一見単純な仕掛けからなる世界を、作家はなんと広く深く掘り下げてみせたことだろう。宮島のカウンターの作品が20世紀末の美術史に残るであろうことは、もはや誰もが否定しえない事実である。
 だが、良くも悪しくもホットな面をもち、かつて街頭パフォーマンスなども試みていた宮島は、完成されたパターンの反復に徹することができない。今回の展覧会でも、人間が9から1まで数えてはミルクに顔をつける行為をえんえんと繰り返すパフォーマンスがマルチモニターで紹介されていたが、数年前に水を使ってやった同じパフォーマンスと同様、ある種の悲壮な切迫感は感じられるものの、結局は滑稽で見るに耐えないと言うほかない。こんなことをするくらいなら、えんえんと日付だけを描き続ける河原温のように、カウンターの表現に徹したほうがいいのでは――そう思うのは、作家の熱い表現衝動を理解しない傍観者の偏見なのだろうか。
 だが、今回の展覧会には、最後にもうひとつ注目すべき作品があった。黒いプラスター・ボードの壁を荒々しく削り取って刻まれた数字の列。それは宮島本人がドリルで一気に彫り上げた作品なのだ。削り滓まで残したその壁は、あのクールなカウンターの列の背後にあるホットな情念を、しかし、パフォーマンス・ヴィデオのような無益な饒舌とはほど遠い禁欲的な緊張のうちに、雄弁に語りかけている。「メガデス」とこの作品を見るだけでも、この展覧会に足を運ぶ価値は十分にある。
 宮島達男展が開かれた東京オペラシティ アートギャラリーは、昨年オープンした新しいミュージアムである。東京オペラシティには、その前から、ガレリアの床に宮島のカウンターの作品が組み込まれていたし(ただし特に日中は散漫な印象を禁じ得ない)、NTTインターコミュニケーションセンター(ICC)もテクノアートに焦点を当てた活動を続けてきている。そのICCで3月上旬まで開かれていた「サウンド・アート」展でも、いくつか興味深い作品を見ることができた。なかでも圧巻は池田亮司の作品だ。無響室の中心にひとりで座った観客は、ある時は聴き取れないほど微妙な、ある時はウーファーの振動が風となって感じられるほど強烈な音が、暗闇の中で、自分の周囲を、いや、自分の内部さえも横切ってゆくのを体験する。一切の無駄を削ぎ落として聴覚の限界に迫る、それは文字通り臨界的な体験である。(同系列の作品がロンドンのミレニアム・ドームの<マインド(精神)>のゾーンにも出品されているが、無響室の体験とは比べものにならない)。
 宮島達男と池田亮司。闇と沈黙に向き合うふたりのテクノアーティストが3月の東京ですれ違ったのは、たんなる偶然かもしれない。だが、われわれはそこに、テクノロジーを駆使した表現を突き詰めることによって、かつてもっとも「内面的」と言われていた次元にまで迫ろうとする、20世紀末のアートの臨界線を見ることができるだろう。

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