Critical Space Archive

今井俊満――最後のエロチカ
 10月初め、画家の今井俊満から電話がかかってくる。「あのねえ、ぼく、またガンになっちゃって、医者に余命4ヶ月って言われてるんですよ。ちょっと話しときたいことがあるんで、会えませんか。」いつも通り明るく自信に満ちた声には、悲しみや不安のかけらもない。そして、数日後アトリエに駆けつけた私は、ずらりと並ぶ近作に驚嘆させられることになるだろう。ピカソ晩年のエロチカを思わせる性の饗宴が、マチス晩年の軽みをもった筆致で、巨大な画面に奔放に展開されている。たとえば、携帯電話をヴァイブレーターがわりに股間に突っ込んでもだえる女……。1950年代からすでにアンフォルメル絵画で世界の美術界の先端に立った今井俊満は、80年代に「花鳥風月」と称する日本の伝統絵画のポストモダンなコラージュへと転じるが、90年代に入り、白血病と闘う中から、いわばその両者を総合するように、銀の飛沫が幽玄な空間に惜しげもなく散乱する「波涛図」の世界に到達した。さらに、その究極の美の世界にさえ飽き足らないというかのごとく、一方では南京や広島といった重い歴史的なテーマ、他方では渋谷を闊歩するコギャルたちという軽薄なまでに現代的なテーマが導入される。それらをあわせて展示した今年3月のパリでの展覧会は、「戦争と平和」と題されていた。この画家ならではの20世紀の総括と言えるだろう。近作のエロチカは、そのコギャルたちの絵をさらにパワー・アップし、見事に洗練したものだ。なんというエネルギー、なんという自由! そう、もし芸術家が死ぬとしても、芸術はこのようにして生きるのだ。東京・銀座のギャラリーGANで開催中の「サヨナラ」展ではそれらの近作が展示されており、17日16時半にはコシノジュンコ・ブティック(東京・南青山・骨董通り)で「フィナーレ」展と題してペインティング・パフォーマンスが予定されている。20世紀を代表するアーティストのひとりの華麗な最後を見逃すわけにはいかない。

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