Critical Space Archive

旧朝香宮邸で見るラリック
 今年は1900年から100年というので、アール・ヌーヴォーやアール・デコの展覧会が世界各地で開かれている。東京でもルネ・ラリックの展覧会が庭園美術館(旧朝香宮邸)で開催中だ。考えてみれば、これ以上ラリックにふさわしい会場はない。1933年にできたこの日本を代表するアール・デコ建築は、玄関の大きなガラス扉(右端のパネルだけに一部ひび割れがある)や、大客室と大食堂のシャンデリアに、ラリックの作品を使っているのだ。どうやら1925年にパリでいわゆる装飾美術展を観た朝香宮夫妻は、この展覧会でアール・デコのガラス工芸家としての名声を確立したラリックに魅せられたらしい。ともあれ、内装デザインを任されたアンリ・ラパンは、ラリックの作品でこの邸宅を飾ることになった。その邸宅でラリックの展覧会を見るというのは、またとない贅沢と言うべきだろう。さらに、岡部憲明による展示と照明の精度の高さも特筆しておきたい。アール・デコのガラス工芸については、当時の最新のクルマのラジエーターを飾ったガラスのカー・マスコットなど、よく知られた作品と再会することができる。だが、今回の展覧会自体の強調点は、むしろ、それに先立つ時期――1900年のパリ万博でアール・ヌーヴォーの宝飾作家としての名声を確立したラリックの作品にある。自然のオブジェを完璧なテクニックと大胆なデザインで作品化したもの――たとえば花びらの細かなニュアンスまでエマイユ(七宝)で繊細に表現したカトレヤやケシのアクセサリーなどは、実に素晴らしい。さらに、そこには、トカゲやカエルを扱い、やや悪魔的ともいえる陰影を帯びた作品も欠けてはいない。そういえば、今年の春から初夏にパリのグラン・パレで開かれた「1900年」展では、医学論文集のルリユール(手仕事の装丁)の表紙を飾るラリックの作品「産婦人科」(1898年頃)――股を大きく開いた老婆を浮き彫りにした象牙の板――を見て、驚いたものだ。そのようなアール・ヌーヴォーの薄明から出発したラリックが、アール・デコの実にクリアな作品をつくるようになる。その過程を追うだけでも、興味深い展覧会と言えるだろう。来年1月末日まで続いた後、京都国立近代美術館への巡回も予定されているが、せっかくならやはり世紀末の一日に旧朝香宮邸でこの展覧会を見るのがおシャレというものではないだろうか。

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