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Re: 第14回三島賞をきっかけに」/渡部直己
 中原昌也のくだんの長編小説につき、『早稲田文学』7月号の連載ページで、わたしは大略以下のようなことを(手短な実証例とともに)記しました。
  1. 過去二冊の短編集に収められた諸編と、この作品との間には、テクストの長短が原理的に惹起する(あえて言えば、正岡子規の俳句・短歌と写生文との間に認められるような)質的な変化が生じている。
  2. その変化にたいし自覚的な作者は、短編にはない規則性(主に、類似した出来事や細部の放置=再利用の周期性、反復に伴う諸細部の相互伝達性)を導入することで長さを支えようとしている。
  3. 一編においては、そうした規則的な叙述形態じたいが真の主役である。そこでは、叙述が自前の規則に従って虚構を配分し、配分された諸人物・出来事がそのつど、みずからを生み出す叙述動作にたいする隠喩的な反映性を示すが、テクストのかかる<自己産出=自己反映>性を作者は全体にわたり、きわめて計算高く律義に遂行している。
  4. このありようは、虚構の色調ともども、たとえばロブ=グリエの『ニューヨーク革命計画』を思わせぬではないが、ただしそれは、あくまでも、言葉そのものの描写的力動を欠いた単調で貧相な図式性としてある。
  5. この単調な貧相さ(計算された<自己産出=自己反映>性という一種の自己撞着)をあえて選ぶことによって、作者がそこに、「68年革命」にたいする世代論的な違和感もしくは批判を託そうとした可能性もありうるが、仮にそうだとしても、この程度のものでは意味がない。
 このエッセーにおいては、わたしの日頃の悪い癖に「文芸時評」という性格も加わり、多分に持って回った(しかも大袈裟な)書きかたになりましたが、単刀直入に「中原昌也の小説は本当に面白いのか」と問われれば、別に面白くはないと応ずるに吝かではありません。上記を平たく言えば、狙いは分かるがこのレベルでは埒もない、といったところです。その意味で、これは本質的に「一定の長さを確保しようと」いう戦略(?)に腐心しただけの作と言え、また、「その不毛な断片性がむしろ面白いと言わせるだけの強度もない」という指摘にも、「不毛」の一語に、上記にいう「規則性」の、タメにする単調さを含んだ上で同意します。
 ただ、これが完全に詰まらないかというと、わたしの目にはひとつだけ買っても良い点があります。上記のエッセーでは触れませんでしたが、それは、「無意味な暴力とセックス」の傍らに、いわば「意味の煮こごり」としての陳腐で紋切型な「挿評」や「心内語」が並置される、その間合いや兼ね合いの可笑しさにかかわります。たとえば、
《本来なら、徹也は女性とみれば見境もなく性交渉を持ちたくなる性分なのに……。勿論、彼は修道僧ではないのだからそれでいいのだ》
あるいは、唐突にして喜ばしい射精直後の岡田が「恥ずかしさを悔や」みながら、心につぶやく《この売女は俺にとんでもないことをしてくれたものだ……》
 ほんの少し賢い「バカボンのパパ」を思わせるこの手の空々しいタッチは悪くないと思います。先の意味でテクストが自前で作り出す規則性の生真面目な紋切型と、いわば人生からテクストへと内挿されるこの投げ遣りな紋切型との衝突の効果というものがありはしないか? そこからすると、作品後半部での「茂」なる若者の長い比較的神妙な「独白」は逆に傷になるのですが、たとえば阿部和重との比較を要するこの点は、まだ十分に理論化出来ていないし、出来てもさほどの事もないでしょうから、ほんの備考として書き添えます。
 なお、青山真治については、映画の方を見損なったまま口にするのも恥ずかしい話ですが、あれは逆に、選者達が映画を見ていなかったために受賞してしまった小説とも言えませんか? ともかく論外の作品です。その青山氏についても、中原氏についても、それぞれ立派な才能がくだらぬ「文学主義」に媚びる(媚びさせられる)事態をおそらく浅田さんは憂慮しておられるのだとおもいますが、恥の上塗り、中原氏の音楽はおろか映画評もほとんど知らぬ身としては、これについては言を控えます。
以上、とりいそぎ返信いたします。

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▼ 第14回三島賞をきっかけに/浅田彰(2001/07/13)
 ▼ Re: 第14回三島賞をきっかけにスガ秀実(2001/07/17)
 ▲ Re: 第14回三島賞をきっかけに/渡部直己(2001/07/24)

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