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1番に起用されていたイチローのルーキー時代、当時の土井監督と対立した時のこと。当てていくバッティングでチャンスメイカーとして生き残るか、干されても振り切るスウィングにこだわるか、の選択を迫られた時、彼は自ら後者を選んでファームに甘んじた。経験を積んで、その後トータル型の1番打者としてブレイクする。バッティングの本道から外れたくない、という強い意志をうかがわせる経緯。ところがメジャーリーガーになったイチローは、キャンプインから早々にステップとスウィングを変えてゴロばかり打つようになる。 |
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この“変わり身”について、メディアには「リードオフの役割が求められたから」といった見方があるが、それはちょっと違う。シーズン前、A.ロドリゲスの抜けた穴が最大懸案だったピネラは、インタビューで「1番にはキャメロンがいる」と語り、当初イチローの3番起用も口にしてた。ところが、イチローはもうすでに“変身”を完了していて、「僕を3番で使ったら打線に迫力がないですよ」と事実上の拒否。構想を組み換えざるを得なかった。この時期、地元紙は「あの小僧はなんでゴロばかり転がしてんだ?」と親分の露骨な不満を伝えてる。チームニーズは3番だった。 |
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つまり、まずは彼の変化ありき。受動的な対策を能動的に行った、ということ。大半の投手が初対戦、球威球速、組み立てまで異なれば、適応できなくて当たり前、そりゃ方法も変えたくなる。しかし、それを否定したのはかつてのイチロー自身。高卒ルーキーが日本の1軍で打つ困難さは、去年の比じゃない。以前は干されても妥協できなかったはずだが、昨季はどんな心境の変化があったのか。そこに、打撃のクオリティよりも数字、ポリシーよりも体面、といった保身的な心理が働いたとすれば、その意味合いは戦術変更より“転向”だ。 |
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意地もプライドもかなぐり捨てて、生き残りをかけた決死の覚悟があったことは推察できる。しかし、メジャー挑戦は1年で終わるわけではないんだから、そこまでガッつかなくてもまずは自分の方法で勝負してみたらいいじゃない。メジャーにだって、マルチタイプやスラッガー型などいろんなリードオフがあるんだし。トライしてダメなら方向転換すればいい。そんな最初っから高い評価を得ようとするから野球がチグハグになる。自分がどうありたいか、より、他人にどう見られるか、を気にし過ぎ。昨シーズンは、その辺が姑息に見えてどーも違和感があった。 |
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今後、イチローはどうなっていくのか? 仮に、去年のバッティングは苦肉の策であって、あくまでトータルヒッターとして成長していくつもりなら、立ちはだかるハードルはかなり高い。 |
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まず「早打ち」について。昨年の四球数は692打数で30、1番打者としてはあまりの少なさだった。悪球に手を出すことも多く、好球必打の積極性より「追い込まれたらやられる」という余裕のなさが目立った。事実、2ストライクを取られると.250しか打ってない。狙い球を絞っての単純なキメ打ちができない2ストライク以後は、打者の対応力がモロに問われる局面。イチローがブレイクした94年はこの状況でなんと.379を打ち、通算でも3割を大きく超えていた。追い込まれてからの強さは彼の非凡の証であったわけだが、昨季は球の見極め、始動の判断、捕そく、といった基本的な打撃感覚が明らかに遅れをとったと言える。彼は感覚で打つタイプ、配球を読む打者ではないと言われてきたが、去年に限っては早いカウントからキメ打ちする“平凡なバッター”だった。 |
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そして「ゴロ打ち」。そもそも振子を止めスウィングを小さくしたのは、投球についていけないという判断。すると振りが鈍ってパワーが落ちるから打球をミドルレンジに集められない。だからのゴロ打ち偏重。とすれば、どんな投球に不具合があったのか? 昨年、変化球を打った打席は.360で、速球は.340。この数字から、俊足でヒットにした実質内野ゴロが大半を占める内安打を除くと、変化球.290、速球.250にまで差が広がる。速球にほぼ完敗だ。もちろん、ピッチングとはコースや緩急のコンビネーションだから一概に球種で立て分けられないが、それでも去年は意図的に早打ちしていただけに、得意不得意が数字に強く反映されたはずだ。この他、配球に150キロ以上のストレートがあると内安打を除いた外野安打率が.202(無いと.262)というデータもある。 |
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これらの状況別打率は、打撃能力の質を示すバロメータ。あれだけタイトな打ち方に変えても、投手との力関係では相当に劣勢を強いられていたことがわかる。特に、速球に弱いのは致命的だ。変化球の球筋などにはいずれ慣れても、対ストレートの感覚や筋力は一朝一夕に向上しない。投球数が最も多く組み立ての柱となる速球を攻略できなければ、コースの揺さぶりや緩急差についていけずどの球にもタイミングがとれなくなる。いつまでもバッテリーに主導権を握られ、キメ打ち、ゴロ打ち、悪球打ちをくり返す。結局、彼の「打撃面の不適応」とは速球に対する力負けだ。 |
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このメジャーのストレート、2シーム系の速くて重い球が克服できない限り、昨季の状態が大きく変わることはないだろう。ストレートに圧されてるのに、長打率が5割6割なんてのはあり得ない。ハッキリ言って、現在の技量と筋力では、トータルヒッターとして確実性とパンチ力の二兎を追うのは難しいと感じてる。かと言って、力負けしないよう安易に筋力を増強してバットを強く握る打法に変えていけば、“しなり”にこだわってきた柔軟なメカニクスが土台から崩れることになる。ましてやそれが、彼のパフォーマンスの最大の特徴である俊敏性やスピードの足かせになってきたりすると、それこそ本末転倒だ。本人も「筋力をつけ過ぎたら自分が自分でなくなる」と言ってるように。 |
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最近のインタビューで気になるのは、「去年と何も変えないことが大事」という発言。今季もまだあのチグハグを続けるつもりらしいが、だったら思い切って伝統的なリードオフタイプへのフルモデルチェンジを図ったほうがいい。いつまでも中途半端をやってるとモチベーションのほうがついて来なくなる。それともここ数年をモラトリアムとして、パワーと柔軟性の新しいバランスを模索しているんだとしたら、本来のダイナミックなイチロー打法をもっとトライすべきだろう。打率ばかり気にして勝負を逃げていたら、ずるずると技術的停滞が長引くだけだ。 |
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いずれにしても、イチローはルーキー時代以来の大きな分かれ道にあるのは間違いない。「パワーかスピードか」の葛藤は、いまだに彼にとっての十字架。このまま何食わぬ顔でプレイスタイルを変えてしまうのか、それとも自分のバッティングを取り戻すのか。ジレンマを抱えたまま、今季彼の試行錯誤は正念場を迎えることになりそうだ。 |
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