Critical Space Archive

 一月末、オーストリアで国民党と自由党が政策協議に入って以来、シラク大統領を筆頭とするフランスは、ハイダーの率いる「極右」自由党のオーストリア政権参加に対して終始明確な反対を表明してきた。ヨーロッパ共同体加盟十四か国によるオーストリアへの外交制裁も、シラクの強力なイニシアティヴで進められた。メディアの大半も、フランス政府の強硬な姿勢に対応するように、「極右」、「人種差別」、「排外主義」といった言葉を掲げてハイダーの台頭に対する批判を繰り返している。
 第二次大戦中のレジスタンスによって正統性を得たド・ゴールが創立したフランス第五共和制においては、少なくとも言説の上では、ナチズム、対独協力あるいはその流れを汲む「極右」への対立は「右翼」のアイデンティティのひとつの核をなしてきた。(「右翼」[ホシュ]党の政治家が「極右」[ウヨク]的な言辞ミ大東亜戦争や日本の植民地主義の肯定ミを弄することが許される日本とは、その点で「右翼」や「左翼」といった概念が大いに異なる。)またミッテラン政権下に始まり、現在ではすっかり制度化した観のある左右両翼の「共存」[コアビタシオン](大統領と首相・内閣が左右異なった党によって占められること)において、その左右のコンセンサスを支えるのは、今回のハイダーの批判に動員されている「人道」と「民主主義」に基づく共和主義であり、その原則は「右翼」共和国連合、民主連合から、「左翼」社会党、共産党、緑の党の一致したハイダー批判、オーストリア政府ボイコットの姿勢によって再確認されている。共産主義革命の可能性のない現在、左右両翼の「共存」を脅かす敵は、経済的・社会的・政治的な諸矛盾をいわば「血と大地」の想像的な同一性によって乗り越えようとする「極右」のウルトラナショナリズムにある。フランスの政治家達が、ハイダーに対して明確な批判を向けたのは、三十年来のオーストリアの「共存」に終止符を打ったハイダーに、フランスにおける「極右」の同類を見たからにほかならない。
 フランスにおけるこういった共存・対立の図式が、他のヨーロッパ諸国によって受け入れられたことは、それぞれの国内で似通った問題が存在することを意味している。「極右」的な言説の日常化に対する懸念から発して、ヨーロッパ諸国が「人道的」かつ「民主的」な立場から「ネオナチ」を批判するという姿勢自体は、正当なものであるだろう。しかし、現在のオーストリアに対するヨーロッパ諸国の制裁が、人道的で民主的なヨーロッパ共同体の誕生を画する、といった構図には懐疑が必要である。ハイダーの「人種主義」的で「排外主義」的な言説は、ヨーロッパ市場の統一と、その将来の東欧への拡大がもたらすとされる移民の増加とに対して、現在のヨーロッパ共同体の東端の小国であるオーストリア国内に生まれている不安を背景にしているからだ。それゆえハイダーは、社会福祉削減やブレアー張りの「企業の精神」の顕揚といった極端な経済自由主義の傍らで、オーストリアのヨーロッパ共同体への参画に強硬な対立姿勢を示してもいたのである。したがって、ヨーロッパ共同体とオーストリアの間には、単に道徳的・イデオロギー的対立のみならず、露骨な利害の対立が存在しているのだ。この観点から見るとき、ヨーロッパ諸国のオーストリアに対する外交制裁は、ヨーロッパ諸国における「社会民主主義」的な「左右」の共存を基盤として、経済的・政治的な分野での自己強化と自己拡大を図っている現在のヨーロッパ共同体の戦略として理解されるだろう。
 ヨーロッパ共同体は、市場や通貨の統一といった経済的な側面を優先させて展開してきたために、行政や立法は、各国の閣僚・官僚のイニシアティヴに委ねられてきた。それは言い換えれば、ヨーロッパ共同体がそれ自体としては「民主的」な制度を備えるにはいたっておらず、一方で市場の論理による旧来の社会的組織の流動化をもたらしながら、執行部への権力の集中を帰結しているということだ。これをヨーロッパ共同体の「帝国」化と言うとすれば、ハイダーに代表されるような「極右」は、人種主義から排外主義まであらゆるデマゴギーをも交えて、旧来の社会組織が「帝国」に対して表明する不安の症候として見ることができる。いわば「人道的で民主的なヨーロッパ」と「極右」のハイダーとは、現在の歴史的コンテクストにおける表裏一体をなしているのだ。われわれは、その双方に対して警戒が必要だろう。こういったヨーロッパの現状において、「人道」や「民主主義」を「帝国」の空言と化してしまわないためには、一方で、従来の国民国家の枠組みの中での「共存」が「対立」の隠蔽となることを回避しなければならないし、他方で、拡大しつつあるヨーロッパという一つの共同体のなかで、その共同体の成員の政治参加を制度化し、彼らの間の対立、紛争、相違を政治的に組織することが不可欠である。―それらは「帝国」をまるごと民主化するという、歴史上かつてない困難な試みとなるはずだ。

 PAGE TOP
Copyright © 2002 Critical Space Organization.  All rights reserved.
批評空間アーカイヴに戻る 批評空間アーカイヴに戻る
Top Page に戻る Top Page に戻る