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国境の両側 - 丹東の風景/松原弘典
MAP 丹東にいってきた。中国最大の国境都市。北朝鮮と鴨緑江をはさんで向き合っている。
 本格的に寒くなる前に旅行をしておこうと思い、国境と郊外の五龍背の温泉をめざす。丹東までは瀋陽から電車で片道5時間弱。軟座で50元(750円)前後。車中ではすでに少し朝鮮語も聞こえる。国境に向かっているからか車内検札時に身分証を提示させられた。おきまりの、あとから他の人が見たら決して読み取れないような「流麗な」字体で車掌が全乗客の身分証番号を控えていたけど、ああいうのって役に立っているのだろうかと思う。
 今回のお供は黄長樺の「金正日への宣戦布告」(文春文庫)。著者は人民のために韓国に亡命したといっても人民の中にどっぷりいたわけではないし、軍や諜報組織の実態を把握していたわけでもないから、少しものたりない部分もあるけど、まあいろんな話が見えてそれなりに読ませる本。彼自身が発展させていったという主体思想に関する記述では、著者本人がいわゆる「ザ・思想家」を自負しているのが、21世紀にもなってもはやなあ、という感じではある。それから彼は、ロシアに行ってからは確かにかなり知的エリートとして生きていくわけだけど、出生を読むと必ずしも上流階級の出身ではないし、そのあたりが戦争をはさんだ怒涛の歴史を感じさせる。戦争中の日本の様子や、戦後のモスクワの様子や、改革開放路線以後の中国の様子がよくわかる。朝鮮のこの世代の知識人は母国語のほか、日本語とロシア語ができるのだなあと思う。
 温泉はだめ。あれじゃ鞍山の「溥儀が入った」っていう湯崗子温泉や、黒龍江のソ連サナトリウム風五大連池の方がいい。ホテルは機能してないし、公衆浴場かプール!しかない。温泉水を使っているらしいけど、衛生的にもちょっと遠慮したくなるような感じ。
 丹東では郵便大厦に宿泊、180元(2700円)。夕方に街歩きをしていたらこの町では駅前広場が野外語学スクールになっているのを発見する。中国の多くの大都市には中山広場があって、そこがたいてい週末の夕方、外国語を勉強している人が集まってきてフリースクール(英語角とか日語角というらしい)という名前の、外国語を使った立ち話の場所になっている。初めて僕が瀋陽の中山広場でそれにでくわしたとき、中国人どうしが英語で話しているのをみてなぜだか不思議に思ったものだし、ましてやそこで日本語で話し掛けられたときはもっと驚いた記憶がある。この町にはさすがに日本語のサークルはなかったけど、英語で話している人はいて、少し立ち話をした。最近英語で中国人と話すと必ず出るのがアメリカのテロの話で、しかも僕が日本人だとわかると決まってショッキングな質問が出る。「お前はアメリカがああいうテロにあってハッピーかそれともアンハッピーか?」。教育のせいだと思うのだけれど、戦争に負けた日本にはアメリカを嫌いな人がたくさんいるという思い込みから出てくる質問らしい。結構教育をしっかり受けていると思われる人のほうがこういうふうに聞いてくることが多くて、そのたびに結構滅入る。ここでもやっぱり聞かれた。「なんでハッピーなの?」と答えるだけなのだけれど。
 翌日は国境付近を見て回る。鴨緑江沿いは公園になっていて、川幅は300メートルくらいだろうか。遊覧船に乗って北朝鮮側である新義州市の岸辺のすぐそばまで寄ることができる。河の中央が国境と聞いていたが船はかなり朝鮮側に寄っていった。川にそのまま飛び込んで泳いでいけるくらいのところまで接近する。水上から両側を見ると対照的で、中国側はこれでもかと建物の立面を派手にしていて、かなりにぎやかな印象。市の建築設計院も川岸に入っていて、特に川に面した部分の建築の整備計画に力を入れているようだ。豊かさを「演出」している感じに見える。対して朝鮮側はほとんど建物が見えない。国境警備詰め所なのか瓦の載った建物が1つと、あとは緑だけ。少し離れて、どう見ても長い間動いてない感じの観覧車がある、公園になっているのか。あとは打ち捨てられた漁船がちらほら。中国側からはひっきりなしに遊覧船やモーターボートが出て、双眼鏡で朝鮮側を眺めているけれど、朝鮮側はずっと人が少なく、こっちを眺めている人もいない。川沿いの道を歩く人はわずかで、男ばかりでみな地味な服装。おどろいたのは川に入って釣りをしたり網を打っているひとがけっこういたこと、寒いだろうに。黄さんの本を読んでいたので、きっと食べ物がなくて漁をしているのだろうと思った。
中国側
中朝国境(鴨緑江より中国側を見る)拡大: 拡大
北朝鮮側
中朝国境(鴨緑江より北朝鮮側を見る)拡大: 拡大
 橋は2つ懸かっていて、朝鮮戦争時に米軍に真ん中を破壊されたまま保存されている古い鉄橋と、今も使っている鉄道橋がならんでいる。前者は破壊痕まで橋の上を歩いて見学できるようになっている。橋の上に立っていたら中国側から朝鮮に向かって国際列車が通過するのが見えた。週4便もあるらしい。客車は2両のみ。日本人は無理だけれど、中国人向けにはツアーがあるようだ。新義州2日とか平壌1週間とか。瀋陽からだと平壌までは約400キロ、丹東はそのほぼ真ん中に位置する、地図を見るとここからあと同じだけ列車に乗れば平壌なのだが、あまり実感がわかなかった。

2001年10月21日 松原弘典 
hmhd
>> 瀋陽での活動を http://members.aol.com/Hmhd2001/ で公開しています

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